平成19年7月

社団法人 海洋産業研究会


は じ め に

沖ノ鳥島は、約40万km2におよぶ広大な排他的経済水域(EEZ)および延伸の可能性をもつ大陸棚の基点であり、将来の世に我が国の国土や海を引き継いでいくためには、沖ノ鳥島の保全は不可欠です。また、国連海洋法条約においてEEZ・大陸棚の資源を適正に管理することは沿岸国の責務とされており、科学的なデータを収集しながら、持続可能な形で資源を利活用していくことは海洋立国日本の未来に向けた大きな使命です。

こうした認識に立ち、当会では昨年度に引き続き、酒匂委員長(東海大学名誉教授)のご指導のもと、藤田大介・東京海洋大学准教授をアドバイザーに、有志会員企業12社で調査委員会を編成しました。委員会では関係機関および有識者からのレクチャーを連続的に受けながら、民間の保有する技術やアイデア・ノウハウ等を活用して、沖ノ鳥島の保全、利活用、基盤整備といった様々な観点での検討を行いました。その成果として、以下の「沖ノ鳥島有効利用プロジェクト」を提案いたします。本提案が沖ノ鳥島の有効利用方策の一助となれば幸いです。

T.電着を利用した沖ノ鳥島保全・再生

U.石灰藻の造礁機能を活用した沖ノ鳥島の維持再生と利用

V.沖ノ鳥島周辺海域 監視・管理のための基盤整備

 

社団法人 海洋産業研究会

 海洋産業研究会

 



1.電着を利用した沖ノ鳥島保全・再生<概要版>  

1−1.目的

 沖ノ鳥島は、東京から約1,700km離れた日本最南端に位置し、その排他的経済水域(EEZ)は、日本の国土面積より広い約40万km2もあり、国土保安上極めて重要な島である。

 現在沖ノ鳥島のサンゴ礁は、外洋の激しい波浪にさらされ、現存する2島の小島(北小島と東小島)ともども、消滅の危機にさらされている。また地球温暖化による海面上昇によって水没の危機にも直面している。本提案は、このような危機的状況にある沖ノ鳥島において、電着技術によってサンゴの増殖を促進し、「島」の保全・再生に資することを目的とする。

 

1−2.提案概要

  沖ノ鳥島の保全・再生を目的に、電着を利用した5つの提案を行う。

  各提案のイメージ図と位置関係を次ページに示す。

@電着によるサンゴ砂・砂礫の定着

堆積したサンゴ砂や砂礫を海底に定着させるために、堆積した砂や砂礫の表面を金網状の陰極でカバーすることによって、カルシウムやマグネシウムがサンゴ砂や砂礫表面にも析出し、定着化を促進できる。

A電着によるサンゴ着床具取り付け基盤

サンゴの種苗が付着した着床具を礁内に移設する際、電着構造物を着床具取り付け用基盤として利用した場合、取り付けにあたっての作業性が優れ、サンゴの生育を促進させる効果も期待できるなど利点が大きい。

B電着によるサンゴ増殖基盤

サンゴ被度が高い区域において更にサンゴ群集を増加させる目的に電着によるサンゴ増殖基盤を設置する。電着は、サンゴ幼生に対しても着床性の向上が期待され、更にサンゴの生育を促進させる効果がある。

C電着による漂砂流出防止

島の南西に航路用リーフ開口部があり、ここから漂砂、砂礫等が流出しているため、礁内に州島等が形成されないと推測されている。開口部からの漂砂流出を防ぐために、航路を確保した潜堤を電着によって構築する。

D電着による流況制御

北小島と東小島の周辺にサンゴ砂や砂礫を堆積させ、島を拡大させるために電着による流況制御用構造物を構築する。

 

1−3.電着について

 @電着の原理

海水中に陽極と陰極の電極を設置し直流電流を通電すると海水中のカルシウム、マグネシウムが電気分解により陰極側に析出する。(次ページの写真参照)

A電着構造物の特徴

電着構造物は、コンクリート構造物と比較して重量が軽く輸送及び設置が容易である。
電着析出物はコンクリートと同程度の物性強度がある。
電着構造物は、自然の岩礁やコンクリート構造物と比較して、海藻などの着生(床)性に優れ、生育を速める効果があり、サンゴへの効果も期待される。
外部電源として、太陽光発電装置や風力発電装置などの自然エネルギーを使用でき、環境負荷が小さい

電着工法は、海水中の鉄構物の防蝕に利用されている他、インドネシアなどではサンゴの増殖に利用されている。(Global Reef Alliance(http://www.globalcoral.org)  

 

 

                  図1−1 電着構造物

 

図1−2 電着による島の保全・再生施工法の提案

1−4.スケジュール提案 

 電着のサンゴに対する効果は期待されているが、まだ科学的に検証されていないものもあり、沖縄等での実証試験による確認も急務である。

 


 

2.石灰藻の造礁機能を活用した沖ノ鳥島の維持再生と利用

<概要版>  

 

2−1.背景と目的

熱帯・亜熱帯のサンゴ礁生態系に生育する石灰藻はサンゴとともに重要な造礁生物であり,リーフの侵食防止の上で重要なアルガルリッジ(藻嶺)を形成する機能をもつ。本提案は、「石灰藻による造礁機能」を最大限に活用した沖ノ鳥島の維持・保全を目的に、沖ノ鳥島におけるアルガルリッジの形成に関する海岸工学的調査,およびアルガルリッジの基である石灰藻に関する生物・生態学的調査を行うと共に,アルガルリッジ増設や人工構造物への被覆・保護効果による耐久性向上について明らかにする。また,石灰藻を中深海から大深海へ移植し「魚礁」や「CO2貯蔵庫」として活用を図る為の基礎的知見を得る。

 

2−2.提案する調査の概要

@海岸工学的調査

 沖ノ鳥島の東西に細長い楕円状の環礁の礁縁部では,年間を通じ強い北東風による波の作用によりアルガルリッジが形成されている可能性が考えられる。その海域を中心に,アルガルリッジの形成の有無および分布調査を行い、礁縁の構造(石灰藻の寄与状況)や生物の着生・蝟集状況を明らかにする。このために,水温,流向・流速の連続観測と栄養塩・pH等の定期分析を行い,アルガルリッジの形成メカニズムや、維持・成長に関わる環境要因を調査・解明する。また,人工構造物への被覆・保護効果による耐久性向上について現地と室内試験により明らかにする。

 

A生物・生態学的調査

 アルガルリッジまたは礁原における石灰藻の水平・垂直分布,資源量についての生物・生態学的な調査を行う。現地で石灰藻をサンプリングし,石灰藻の種類および着生生物の同定を行うとともに,室内培養実験によって生長・光合成適温,成熟時期,生理生態学的性質等を明らかにする。有用な種類については成長最適条件を明らかにすると共に,サンゴの着生・成長に関わる基礎的実験等を行う。海岸工学的調査と合わせ,石灰藻の移植等によるアルガルリッジ増設の可能性を探る。

 

B水産工学的調査

魚礁は直径10cm未満の石灰藻(主に球状)を,粗い縄カゴ,生分解性プラスチックカゴあるいは非分解性の強固なカゴ(コンテナ)などに収納し,周辺海域に水深別に設置し,現場および定期的な引き上げによって,生物の利用状況や石灰藻自体の溶解・変質状況を実際に確かめ,全く新しい観点から「魚礁」もしくは「CO2貯蔵庫」として活用を図るための基礎的知見を得るとともに,必要な技術開発を行う。

 

 

 

図2−1 石灰層の機能と特徴  

2−4.スケジュール提案 

 


 

 



3.沖ノ鳥島周辺海域 監視・管理のための基盤整備

3−1.背景と目的

 沖ノ鳥島は、東京から1,740km離れた日本最南端に位置し、沖縄から約1,100km、小笠原より約900kmの絶海の弧島であり、フィリピン海盆の中央を南北に走る九州-パラオ海嶺のほぼ中央に位置する東西4.5km、南北1.7kmの環礁で、リーフの外側は、水深3,000m〜4,000mに至る急竣な斜面になっている。沖ノ鳥島周辺は、台風が発生する海域であり、現在もリーフ内に幾つかの気象・海象観測機器が設置され、観測・計測が続けられているが、本土へのデータ伝送は、一部衛星回線を使用する程度で伝送容量に制約がある。また、データレコーダにデータを記録したものを、年1〜2回、船により回収することも実施されているが、即時性に欠けている。

このような背景により、従来空白域であった沖ノ鳥島周辺海域を中心とした海面、海中、海底の三次元的な総合観測・監視システム構築を提案する。対象海域は当面領海内(12海里)を主とし、将来的にはEEZの範囲まで拡張することを視野に入れる。 

 

<提案する調査の概要>

3−2.総合観測・監視システム

   従来のラグーン内を主とした気象・海象センサー以外に、中層係留ブイ、海底地震計・津波計、ROV・AUV、各種水中音響ソーナーなどを広域に展開し、主に以下の観測・監視を行う。取得したデータ伝送については、海底ケーブルを利用した高速双方向データ伝送ネットワークにより連続したリアルタイム計測を行う。

(添付図参照)  

@沖ノ鳥島周辺海域の気象・海象観測

A沖ノ鳥島を中心とする海域監視(海中・海底を含む)

B沖ノ鳥島周辺海域における水産資源利用のための観測と支援

C沖ノ鳥島周辺海域の海底鉱物資源探査

Dフィリピン海プレートダイナミクスの観測

E沖ノ鳥島保全・再生に関わるモニタリング

(主要な観測・監視項目については、添付表参照)

 

3−3.総合海洋基地

   沖ノ鳥島周辺海域での上記観測・監視活動を長期間、継続的に実施するためには、従来の老朽化した設備に代わって、新たな高機能型支援基地が必須である。

このためには、ラグーン内に観測員の居住機能と、観測データの集中制御・中継機能などを有した「中継基地」を新たに設置し、ラグーン外側に隣接して「深海調査・観測基地」を新設する。

3−3−1.ラグ−ン内中継基地

第一段階として、沖ノ鳥島のラグーン内に海象条件に耐えられる以下の機能を有した中継基地を設置する。海象条件としては、波高11mに耐えられるものとし、SEP(Self Elevating Platform)上に基地を構築する。

周辺海域の観測データを集中制御し、日本内地へ送信する。(通信制御装置)
観測員が最大で10数名居住できる。(居住設備)
観測設備を監視する。(計測監視室
ROV・AUV等を吊り上げ回収し、整備する。(揚荷収納設備と整備室
観測員の生活、監視計測装置などに給電する。(発電・給電装置
 
(太陽光発電装置と内燃機関の併用など)
造水装置(太陽光利用など
食料の貯蔵設備
汚物分解システム・倉庫等
珊瑚礁再生等の保全事業のモニタリングを行う。

   現在ラグーン内のSEP及び上部設備はかなり老朽化しており、新設の中継基地の耐用年数は50年間程度とし、耐食材料などを多用する。また、人間が居住することにより発生する汚物等を分解する設備を設置し、残渣は外洋に投棄する等ラグーン内の自然には、影響を極力与えないよう設備を設計する。

 また、太陽熱による鋼構造物の劣化観測耐用試験も合わせて実施できるよう考慮する。  

3−3−2 深海調査・観測基地
  第二段階として、深海調査・観測基地を検討する。基地構造についは、ラグーン外周の設置場所に合わせて、海底設置型又はTLP(Tension Leg Platform)方式などを考える。

(1)基地機能
・ROV、AUVなど潜水装置の発進・揚収と支援(消耗品取り替え、充電など)
・観測・監視データの取り込み
・潜水装置、各種センサー、各種水中音響ソーナー、中継器などの保守・整備
・調査・観測船、各種母船、交通艇等の着岸と支援(燃料、消耗品補給など)

(2)装置・設備など
・発進・揚収装置      ・格納庫  
・整備場(予備品格納)   ・発電・充電装置
・着岸用ポンツーンなど
 

添付表:主要な観測・監視項目
(沖ノ鳥島周辺海域)

 

観測・監視項目

プラットホームなど

表層部

(海上、海面)

観測項目:  
・風向・風速、気温、降水量、湿度、気圧、日射(光量子)量、放射量、紫外線量、  
・二酸化炭素、  
・水温、流向・流速、塩分濃度、海中光量子、溶存酸素、pH、クロロフィル、栄養塩濃度、 アルカリ度、全炭酸、波高  

監視項目:  
・各種TVカメラによる航行船舶・不審船などの監視  

・多目的ブイ  
・調査・観測船

海中

観測項目:  
・水温、塩分濃度、密度、深度、溶存酸素(主にCTDO
センサーによる)  
・流向・流速(主にADCPによる)  

監視項目:  
・各種水中音響ソーナーによる監視  
・水中TVカメラによる監視

・中層係留ブイ  
・ROV、AUV  
・調査・観測船

海底及

海底下

観測項目:  
・水温、塩分濃度、密度、深度、 溶存酸素(主にCTDOセンサーによる)  
・流向・流速(主にADCPによる)

監視項目  
・地震・津波計測(地震計、津波計による)  
・海底資源調査(調査・観測、サンプリングによる)  
・各種水中音響ソーナーによる監視  
・水中TVカメラによる監視

・ROV、AUV  
・堀削孔利用システム  
・BMS,NSS  
・海底ケーブル  
・調査・観測船  
・深海堀削船 (海底地質、地形は別途)

 ROV: Remotely Operated Vehicle; AUV: Autonomous Underwater Vehicle 
   BMS: 深海ボーリングマシーン; NSS:海底サンプリングシステム

 

3−4.スケジュール提案 

テキスト ボックス:

図3−1 沖ノ鳥島周辺海域 監視・管理のための基盤整備(概念図1)

 

図3−2 沖ノ鳥島周辺海域 監視・管理のための基盤整備(概念図2)

 











 委員名簿

(敬称略・順不同)

<委員長>
酒匂 敏次   東海大学名誉教授

<アドバイザ>
藤田 大助   東京海洋大学准教授
 
参加会員
() I H I
鹿島建設()
五洋建設()
新日鉄エンジニアリング()
大成建設()
東亜建設工業()
東洋建設()
深田サルベージ建設()
前田建設工業()
三井造船()
三菱重工橋梁エンジニアリング()
ユニバーサル造船(株)
事務局
(社)海洋産業研究会